※本作はフィクションです。登場する人物やエピソードはすべて作者の妄想によるもので、実在のものとは関係ありません。
第4話「ナンバープレートに込めたプロポーズ」
7月の終わり、梅雨明けしたばかりの青空はまぶしかった。
雨の日々を乗り越えた美帆と慎也の心は、どこか吹っ切れたように軽くなっていた。
あの雨の日以来、ふたりは少しずつ自分の気持ちを素直に言葉にできるようになった。
慎也は、毎朝美帆に「おはよう」とLINEを送り、美帆は「いってらっしゃい」と返してくれる。
たったそれだけで、1日の始まりが幸せになる。
週末はふたりでスーパーに買い物に行ったり、時には湖までドライブしたり。
まるでずっと昔から知っていたような心地よさがあった。
ある日、美帆が「実家に帰るので車を点検に出す」と言い出した。
「代車を借りるけど、軽自動車じゃないかも」
少し寂しそうに笑う美帆に、「俺が送り迎えするよ」と慎也は申し出た。
「じゃあ、帰りにちょっと寄り道してもいい?」
「もちろん!」
数日後、美帆を駅まで迎えに行った慎也。
彼の車は、以前の黄色い軽自動車ではなく、新しい同じ黄色のN-BOX。
「え、クルマ変えたの?」
「うん。ちょうど買い替えのタイミングだったんだ。せっかくだから、二人でいろんな場所に行けたらいいなと思って」
「新車の匂い、いいね」
美帆はシートに座り、自然と微笑んだ。
慎也はナビを設定しながら、ちらりと助手席の美帆を見る。
少しだけ緊張した面持ちで、ハンドルを握った。
「ねえ、美帆さん。今日はもうひとつ、寄りたい場所があるんだ」
「どこ?」
「……着いてからのお楽しみ」
からかうように笑う慎也に、美帆は「なにそれ」と拗ねたふりをした。
やがてたどり着いたのは、小高い丘の上にある展望公園だった。
見晴らしのいい駐車場で、車を停めると、遠くまで広がる街と、夏の空が一望できた。
隣には、美帆の愛車も点検から戻ってきたばかりで、ピカピカの黄色いボディを輝かせている。
「せっかくだから、並べて写真撮ろうか」
「うん!」
二台の黄色い軽自動車が仲良く並ぶ。
「なんだか、家族みたいだね」
「本当だね」
美帆がスマホを取り出し、ツーショットのセルフィーを撮った。
慎也は少しどぎまぎしながら、「ちょっと見てほしいものがあるんだ」と言って、新車のナンバープレートを美帆に指差す。
「……1122?」
「うん。『いい夫婦』って読むらしいよ」
美帆は一瞬キョトンとした顔をしたが、すぐに「えっ……」と口元に手を当てた。
「もしかして……」
慎也は、車のトランクから小さな花束と箱を取り出した。
「美帆さん。これからも、毎日隣にいてほしい。
同じナンバー、同じ色の車で、ずっと並んで走っていこう。……結婚してください」
思わぬサプライズに、美帆はしばらく言葉が出なかった。
でも、涙がぽろりとこぼれると、すぐに笑顔になって「はい」とうなずいた。
「もう、こんな演出ずるいよ……」
「ごめん、ちょっとだけカッコつけてみた」
「でもすごく嬉しい。私、ずっと慎也さんと家族になりたいって思ってた」
ふたりはその場で小さくハグをした。
黄色い車たちが見守る中、さわやかな風が吹き抜ける。
そのあと、公園のベンチで未来の話をした。
どんな家に住みたいか、子どもは何人欲しいか、どんな毎日を送りたいか。
慎也が「子どもにも“いいナンバー”つけてあげたいな」と冗談を言うと、美帆は「今度は私が番号を選ぶね」とウインクする。
帰り道、駐車場で美帆の車に貼ってあった小さな星のシールに気づいた慎也が、
「それ、何のシール?」と聞くと、
「幸せの星だよ。私のお守り」
「じゃあ、僕の車にも貼っていい?」
「もちろん!」
ふたりは星のシールを一緒に貼った。
これから先、どんな困難があっても、
同じナンバーと、同じ星がふたりを守ってくれる。
慎也はそう信じて疑わなかった。
そして数ヵ月後、ふたりは家族や友人に囲まれ、結婚式を挙げた。
ウェルカムボードには、二台の黄色い軽自動車と「1122」のナンバープレートが描かれている。
参列した友人たちは「これぞエンジェルナンバーの奇跡だね」と拍手喝采。
式が終わったあと、慎也は美帆にそっと耳打ちした。
「これからも、毎日“いい夫婦”でいようね」
「うん、ずっとずっと一緒に」
こうして、ナンバープレートに込めたプロポーズは、ふたりにとって最高の思い出となった。
それぞれの車は、家族のしるし、愛の証として、これからも並んで走り続ける。